大阪市立大学 人権問題研究センター

大阪市立大学

Announcement

人権問題研究センター研究員によるセクハラ事件についての声明

2007年2月14日

2006年6月27日に、本学の教育研究についての最終決定を行う教育研究評議会において、その処分が決定された1件のセクシュアルハラスメント事案、ならびに2006年12月18日に教育研究評議会で承認された2件のセクシュアルハラスメント等事案は、いずれも人権問題研究センターの専任研究員(同一人物)が加害者となった事案でした。

大阪市立大学におけるセクシュアルハラスメント調査システムについて概略すると次の通りです。まず、本学では、セクシュアルハラスメント(以下セクハラと略します)の被害を受けたという相談は、学内セクハラ相談窓口(各研究科の教員の中から選ばれたセクハラ相談員、および担当事務職員)が受け付けます。ここで被害者の話をよく聞いて対応を考えていきますが、被害者の意志を尊重しながら、被害者が加害者の処分を望んだ場合などは、セクハラ調査委員会(セクハラ相談員とは別に、各研究科の教員の中から選ばれた調査委員、および担当事務職員)が調査を行います。セクハラ調査委員会では、被害を受けたと申し出た人(申立人)と、「加害者」として名指しされた人(被申立人)の双方から事情を聞き、関係者の証言や証拠を集めながら、セクハラが事実であったかどうかを判定します。本学の教職員は、この調査に協力することが義務づけられているので、被申立人は事情聴取に応じなくてはなりません。この調査は、90日以内に結論をだすというきまりがありますが、申立人、被申立人の双方の人権と二次被害の防止、個人的事情に配慮しながら、慎重に調査をおこなうため、90日以内に結論がだせない事案も少なくありません。こうした現実から、必要であれば調査期間を延長できるというきまりもあります。

セクハラ調査委員会は、結論がまとまったらすぐに、教育研究評議会で調査結果を報告します。その報告が教育研究評議会で検討され、教員が加害者であるとの結論がでた場合には、その教員が所属する研究科の教授会が、教員への処分内容(免職、停職など)の案をつくります。教育研究評議会はすみやかにこの処分内容案を検討し、処分内容を決定します。このような手続きは、煩雑なように見えますが、安易な結論を出して申立人・被申立人の双方に人権侵害をおこさないためにも必要な手続きと考えらます。 こうした学内調査の結果、人権問題研究センターの専任研究員が複数の学生に対してセクハラを行ったという事実が明らかになったことは、センターにとっては大きな衝撃でした。

ところで、今回の3件の事案については、3つの調査委員会がつくられ、それぞれに調査検討をおこなった結果、すべての事案について被害を受けたという学生の主張が認められ、加害者が性的な誘い、あるいは教員としてあってはならない言動をおこなったことが明らかにされました。これをうけて、2006年6月の教育研究評議会は、第1の事案について、加害者に対する停職3ケ月の処分を決定しましたが、これは大学の規程では、懲戒免職につぐ、大変厳しい処分でした。また、2006年12月の教育研究評議会では、残る2つの事案についても、より厳しく処分するべきであるという意見に全員が賛成しましたが、残念なことに加害者はすでに11月末に辞職しており、停職や免職といった処分を行なうことはできませんでした。

民法では、労働者の権利として、辞職の権利が認められています。このため本学の理事長は、調査委員会の結論が報告される直前であったにもかかわらず、加害者の辞職を認めざるをえませんでした。(ただし退職金は、金額を20%減らして支給しました。)このことについては、被害者からも批判の声があがっており、大学の中でも異論があります。半年以上かけての調査の結論がもうすぐ出るというその時に、加害者から辞職願いが出た場合に、大学は受理を拒否するという毅然とした対応がとれないものなのか、今後の課題として残されているようにも思います。

われわれが所属する人権問題研究センターは2000年4月に、旧同和問題研究室のスタッフと研究活動を引き継ぎ、その研究領域と研究体制を拡大して設立された研究組織です。現在のスタッフは、創造都市研究科の教員である専任研究員2名(定員3名)と、学内の各研究科の教員である15名の兼任研究員です。センターは、一般の学部・研究科のように教育を担当する部門ではなく、センターに籍を置く学生・大学院生はいません。また、本学における人権政策や人権問題を取り扱う委員会である、「人権問題委員会」とは別の部門です。

このように人権問題研究センターは、学部学生・大学院生の教育や大学運営についての権限をもたない、研究活動に特化した全学的なネットワーク組織です。センターの専任研究員は、創造都市研究科における教育・研究に加えて、全学の学部生が履修する学部共通教育における人権関連科目をいくつか担当し、人権問題関連図書の充実にも努めています。また、専任研究員と兼任研究員が協力して、年に8回程度の公開研究会「サロンde人権」を開催するとともに、毎年、研究紀要「人権問題研究」を刊行し、多くの優れた研究成果を発表してきました。さらに、高度の専門性をもつ研究組織として、人権問題委員会からの要請をうけて、「人権問題ハンドブック」の編集や、学生への人権問題ガイダンスも担当してきました。

こうしたさまざまな活動や研究成果は、ひとえに人権問題研究に対する、専任・兼任研究員の強い関心と真摯な努力の賜物です。わたしたち研究員は、本センターを、国内有数の人権問題研究の拠点であり、先見性と優れた研究能力・実績を誇る研究センターであると自負しています。

このような人権問題研究センターの専任研究員が、セクハラ問題により処分されたのですから、他の専任・兼任研究員のショックは隠しようがありません。長年の努力の中で築き上げたセンターへの社会的信用も大きく傷つけられてしまいました。なによりも人権問題の解決を願いセンターに集う学生たちの期待を裏切ることにもなってしまいました。2006年6月に第1事案について処分が決定されて以降、各研究員、とりわけ専任研究員は、なぜこのような事態がおこってしまったのかということについてさまざまな自問を繰り返してきました。このような自問をふまえ、センターとしては、この間以下のような取り組みを行なってきました。

2006年6月には、センターの定例研究会「サロンde人権」に、東京都において長年セクハラ相談に取り組んでこられた金子雅臣さんを迎え、セクシュアルハラスメント問題の本質についての研修を行ないました。また、センターの専任教員は、学内教員向けに開催されたセクハラ防止研修会の講師を務め、人権問題委員会が発行する「人権問題ニュース」のセクハラ特集にも寄稿するなど、本学の教職員や学生を対象とした、キャンパスセクシュアルハラスメント問題の啓発に取り組んできました。さらに、12月の「サロンde人権」では、「大学における人権を守るとりくみ」として、現状の本学におけるセクハラ対応策の不十分な点を探り、よりよい対応・防止策を模索する研究発表を行いました。この研究成果については『人権問題研究』7号に発表される予定です。

人権問題研究センターでは、今回の事態をふまえ、わたしたちに何ができるのか、何をするべきなのかについて、鋭意検討を続けています。さしあたり来年度にかけては、センターの研究員を中心にして、学部学生・大学院生や学内外の専門家・研究者にも協力を求めながら、共同研究「大学におけるセクハラ防止・被害者救済についての研究」プロジェクトをたちあげ、キャンパスセクシュアルハラスメント問題のよりよい解決のための研究に取り組んでいきます。わたしたち研究員は、こうした一層の研究活動を通じて、セクシュアルハラスメントをなくす実践を行なっていくことこそが、今回のキャンパスセクシュアルハラスメント事件によって傷ついたセンターへの信頼をとりもどす、最も重要な方法だと考えています

今後もわたしたち人権問題研究センターの活動にご理解とご協力をいただければ幸いです。

人権問題研究センター研究員一同

セクシュアル・ハラスメントについての見解

2006年12月27日

12月19日付けで大阪市立大学学長は「元教員(助教授)が学生に対して、悪質なセクシュアルハラスメント行為等をしていたことが判明」と談話を発表しました。この元教員(以下A教員と略称)は、創造都市研究科と同時に人権問題研究センターに所属していた教員であり、当然のことながら人権問題研究センターとしても、この事態を深刻に受けとめております。

A教員によるセクシュアルハラスメント行為等に対する告発は、別々の学生から合計3事案として提出されたものです。第1事案については、2006年3月の調査委員会でセクシュアルハラスメントが認定され、A教員に対して3か月の停職処分が6月に確定しました。これを受け、7月に学長はA教員に人権問題研究センターの研究員の解任を命じました。また、12月18日の研究教育評議会では、第2事案、第3事案について調査委員会から調査結果の報告がされました。いずれも申告者(複数)の訴えが認められ、Aに対して厳しい懲戒処分が相当であるという判断が下されました。

本来ならば、これらの調査委員会の結論を得て、しかるべき懲罰委員会で処分内容が検討・決定されるべきはずのものですが、A教員はすでに退職届けを提出し、それが11月30日付けで受理されました。そのために、懲戒処分は具体化されないままになってしまいました。

しかしながら、すでにA教員は人権問題研究センター研究員を解任されているとはいえ、第1事案は、創造都市研究科での出来事でしたが、第2事案は、同和問題研究室時代のことであり、第3事案は、人権問題研究センターが発足してからの事案です。それゆえに、人権問題研究センターとして、今回の一連の事案に関しては深くその責任を感じております。

12月20日、学長から人権問題研究センター所長は、A教員の上司として監督不行き届きであったとして、口頭で厳重注意を受けました。所長として、A教員によるたび重なる問題行動にまったく気が付くことなく、見過ごしてきたことを深刻に反省しなければなりません。

また被害を受け、精神的苦痛を長期にわたって受けてきた学生諸君に対して深くお詫びいたします。

A教員は教育熱心で学生にも人気のある教員でした。それだけでなく、人権問題研究センター発足以来2005年まで新入生ガイダンスで、大阪市立大学の人権問題への取り組みを紹介し、本学は差別を許さない大学であり、セクシュアルハラスメントを容認しない大学であることを訴えてきた教員です。悩みを抱える学生もこの先生なら聞いてくれると信頼して相談に行った学生も少なくありません。そのような教員が、セクシュアルハラスメントを行い、教員として適格性を欠く行為を繰り返し行ってきたというのは、学生に対する重大な背信行為であります。同時に、全国に先駆けて人権宣言を行った大阪市立大学への信頼を大きく揺るがし、人権問題研究センターに計り知れないダメージをあたえてしまいました。

加えて、A教員がセクシュアルハラスメントを繰り返し行ってきたことをなぜ見抜けなかったのか、どこにどのような問題があったのか、解明しなければならない課題と強く認識しています。また、この間のセクシュアルハラスメント事件への対処のありかたに関する大学のシステムにも、さまざまな問題のあることが判明しました。調査が長期に及んだこと、調査期間中に加害教員の依願退職が出された場合の対処の仕方、退職や転出により懲戒処分に至らない場合の問題、再発防止の問題、被害学生の救済など、多くの課題に取り組まねばなりません。

これらのことに鑑み、人権問題研究センターとしては、一日も早く信頼を回復するために、人権問題研究センターの教育、研究活動を総点検して行きます。とりわけ、大学におけるセクハラ防止・被害者救済についての研究プロジェクトを立ち上げ、その研究成果を政策提言にまとめて、学長に提言することを考えております。

これらのことを真摯にとりくみ、新たな気持ちをもって人権問題研究センターの信頼性の回復に取り組んでいきたいと考えます。

大阪市立大学人権問題研究センター
所長 野口 道彦